自賠責保険金を被害者自身が直接請求する「被害者請求」
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ファイナンシャルプランナー:須藤 公保 |

人身事故の被害者が自賠責保険金を直接請求できる「被害者請求」は、加害者の同意なども必要としない、人身事故補償の基礎になっています。
例えば、被害者の定義ですが、偶然交通事故に遭ってケガをした人を被害者としており、その被害者側の過失も7割に達しなければ保険金の減額はありません。
自賠責保険は、自動車損害賠償保障法に規定されていて、一般的な損害賠償のように民法709条に基づく加害者の過失責任の立証は必要ありません。従って、被害者請求も比較的簡単に請求ができるようになっています。
万一の際は、以下の解説を参考に保険金請求を行ってみて下さい。
1.被害者請求のしくみと手続き
自賠責保険金を被害者請求で受け取るしくみは、比較的シンプルです。
「誰が、いつ、どこで、どのような事故で、どのようにケガ(死亡)したのか?」という内容を証明する必要書類を揃えることで、面倒な交渉なしで保険金を受け取ることができます。
また、加害者側は、無過失の立証が困難であれば、基本的に運行供用責任が発生し、自賠責保険が適用になります。現実的に一般的な事故で加害者の無過失の立証は、非常に困難で実質的に無過失責任ともいわれます。
被害者請求の順序は、簡単で指定の書類を集めて提出するだけで、後は書類と事故の内容が審査されて、概ね1か月以内に結果が知らされます。
余程のことがない限り、減額はありませんが、むち打ち症などで柔道整復師を利用する際は、診療状況により減額されることもあります。
保険金請求手続きから保険金決定までの流れ
1.保険金請求書類の提出
被害者請求する人は、損害保険会社へ自賠責保険の請求書類を提出します。
2.損害調査依頼
損害保険会社は提出された保険金請求書類を確認して、損害保険料率算出機構の調査事務所に送ります。
3.損害調査
調査事務所では、事故の発生状況と自賠責保険の対象事故か?傷害と事故の因果関係など、請求の損害金額を公正かつ中立の立場から調査します。
4.損害報告
損保料率機構調査事務所は、調査依頼の損害保険会社に対し調査結果を報告します。
5.保険金支払
保険会社は、保険金支払額を決定し請求者に自賠責保険金を支払います。
6.保険金受取
上記の流れにより確定した保険金を被害者は受け取ります。
※自動車総合安全情報サイトより「支払いまでの流れと詳細」より引用
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2.自賠責保険請求時に必要な書類
説明が前後してしまいましたが、上記の書類提出時に揃える内容は以下のとおりです。
自賠責保険の請求時に必要な書類を、種類と請求先や取り付け先など、状況別の表にまとめました。保険金請求時に照らし参考にして下さい。
保険金請求に必要な書類
請求時に必要な書類 | 保険金請求 | 仮渡金 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
書類の種類 | 書類請求取付先 | 死亡 | 後遺障害 | 傷害 | 死亡 | 傷害 | |
1 | 保険金・損害賠償額・仮渡金支払請求書 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | |
2 | 交通事故証明書(人身事故) | 自動車安全運転センター | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
3 | 事故発生状況報告書 | 事故当事者等 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
4 | 医師の診断書、死亡診断書(死体検案書) | 診療先医療機関 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
5 | 診療報酬明細書 | 診療先医療機関 | ◯ | △ | ◯ | ||
6 | 通院交通費明細書 | ◯ | ◯ | ||||
7 | 付添看護自認書、または看護料領収書 | △ | △ | ||||
8 | 休業損害の証明(休業損害証明書等) | 事業主、市区町村 | △ | △ | △ | ||
9 | 損害賠償受領者の本人証明(印鑑証明書) | 市区町村 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
10 | 委任状及び代理人 | 市区町村 | △ | △ | △ | △ | △ |
11 | 戸籍謄本 | 本籍地 | ◯ | ◯ | |||
12 | 後遺障害診断書 | 診療先医療機関 | ◯ | ||||
13 | レントゲン写真等 | 診療先医療機関 | △ | △ | △ |
※自動車総合安全情報サイト「請求に必要な書類」より引用・抜粋
○印は必須書類、△印は事故や受傷の状態・請求内容によって必要になる書類です。赤字の書類は、保険会社窓口に備え付けてあります。被害者が仮渡金の被害者請求時に提出した書類は、後の請求で重複して提出する必要はありません。
3.被害者請求のメリットとデメリット
被害者請求は、メリットがデメリットに繋がる少し歯がゆい性質を持っています。
3-1.メリット
自分が補償を受けることに際して、細かなことをいとわず多少手間がかかっても自分が納得できるように手続きしたい人なら、被害者請求をメリットと感じるはずです。
なんといっても請求内容の隅々まで自分で確認できますし、加害者の意向を差し挟まず納得の行く保険金請求ができます。
傷害保険金は120万円までですが、健康保険と組み合わせれば、診療費への支払いをおさえて、その分休業損害や慰謝料請求の枠を残すこともできます。
3-2.デメリット
その反面、すべてを自分でやることが面倒だと感じる人には、被害者請求はこの上なく苦痛になるかもしれません。
日頃からお付き合いのある保険代理店や保険金請求に詳しい友人などがいれば別ですが、そういうことは稀だと思います。本来、相手が任意保険を使って一括払い対応してもらえば全く面倒のない話なので、そうした気持ちの部分からも「おっくう」になってしまいます。
つまり、事故の加害者なのに保険金請求の手続きを自分でするのは「面倒だ!」と考える人には、大きなデメリットになるでしょう。
3-3.任意保険会社の一括払いに対する知識を得る
一般的に加害者側の任意保険会社は、加害者の賠償義務となる、被害者の診療費、交通費、休業損害などすべてを「一括払い」対応にして、被害者との示談交渉に持ち込みます。
確かに任意保険会社が加害者の賠償責任をすべて「一括払い」にして対応しますが、任意保険会社はその後で自賠責保険会社に対し「一括請求」の加害者請求を行います。
任意保険会社は、人身事故の損害について加害者請求により多くを回収しているので、対人賠償に限り実質保険金のロスが少なくなっています。
ちなみに2013年の統計で自賠責保険から支払われた傷害保険金は、平均1人あたり59.7万円でした。傷害保険金の上限が120万円ということを考慮して、傷害による保険金支払いを検討すると任意保険会社の損害率は少ないといえそうです。
ざっくばらんに申し上げれば、任意保険の事故担当者は、「自賠責保険からの支払い上限を目安に示談交渉している」という現実も見えてきます。
今までは、相手が任意保険に入っていれば、相手の事故担当者任せにするのが当たり前でした。しかし今後は、被害者請求の知識を活用して、保険会社担当者との示談交渉に臨むことが賢明な方法になるでしょう。
4.被害者請求のまとめ
被害者請求については、相手が任意保険に入っていない、自分にも過失要因がある、相手任せにしたくないなど、いくつかの理由から利用を検討することになります。
保険金請求については、「書類の作成が面倒」というデメリットもありますが、しくみや手続きは、以前と比べて簡単になったといえます。書類の入手などで難しいことはないので、少しの面倒をいとわなければメリットは高くなるでしょう。
被害者請求は、本来、交通事故被害者の救済を目的とした基礎的な保険です。上手く利用して、しっかり補償を得るようにしましょう。